鳥取県文化振興財団情報誌【アルテ】

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2016March

鳥取県芸術家百華Vol.83 劇作家 大和屋かほるさん

劇作家、そして高校演劇部顧問として
~2015年中国地区高等学校演劇発表会
創作脚本賞受賞作『「F」と呼ばれた男』の制作を通して~

ここ数年は「人はどういう状況で他者を疎外し、個人や社会で排除するようになるのか」といったことを考えています。一般公演向けには、そうした関心を優先できますが、高校演劇ではそうはいきません。高校生の感覚や問題意識とにズレがあるからで、どういう具体的なドラマなら彼らが本気で取り組めるか探ります。ズレたまま書くと、演じる高校生は頭でわかっても、理性よりも深いところで登場人物の抱えてるものがつかめなくて、実際には演じられません。演劇は肉体表現なのでそれはもろに出ます。

『「F」と呼ばれた男』は老人介護施設が舞台。現代は老人でも若者でも経済効率の論理から外れると疎外されかねない。そんな社会をどう生きるかといったテーマでした。学校教育では「疎外や排除は止めましょう」ですが、「どうして私たちはそんなことをするのか」と迫るのが演劇です。稽古は、お互いの気持ちや経験を話したり、状況や感情がつかめるような提案をしたり、ドラマを自分のことだと感じられるようにする試行錯誤の反復でした。でも雰囲気は和気あいあいって感じでしたよ。でないと続きません。

練習風景
『「F」と呼ばれた男』(2015.11.21/アステールプラザ大ホール)

「高校演劇」のおもしろさはどんなところですか?

一般の演劇作品として観れば未熟なんでしょうが、その未熟な高校生にしかできないところでしょうか。キャストにしぼって話をすれば、プロの俳優は化けることができますが、高校生は演技が未熟なので、その分、自分の十数年の人生がそのまま出ます。無理に演じようとするとその無理した部分が出たりします。舞台の上で強く訴えたり、黙るしかなかったり、他人を罵倒したりされたり、ふだんできない行動をドラマの人物としてやることで、その子自身のリアルなものが見えてくる。そこが痛々しくも微笑ましくも、感動を生むんだと思います。彼らは彼らで自己表現とか人生のシミュレーションやリハビリをしてるんだなと思うこともあります。

鳥取の高校演劇について

とてもせまい世界だと思います。発表の場を設けても、保護者以外の一般の方との接点はあまりありません。顧問が情報を発信しないからだと批判する人もいます。PRの仕方をもっと工夫しなければと思います。

それから、高校生活自体がせまいので、一般の演劇活動者と交流する機会があればと思います。演劇をきっかけに学校以外の関わりが持てれば、世界も広がるし、人間理解も深まって、自分たちの演劇活動に還元できます。シミュレーションの意味も高まります。

県内演劇部の顧問の中には、いい作品を創ろうとがんばっている先生はたくさんいますし、同じ苦労をしています。連携をとって、開かれた世界でありたいですね。

大和屋さんの今後の活動について

私の場合、批判されることが9割(笑)。ごくまれにプロの演劇人が評価してくれたり、今回のように賞をいただいたりすると励みになります。これからも演劇を通して考えるべき問題と向き合って、高校演劇では部員たちの問題意識とぶつかりながら書いていきたいと思います。6月には県内各地区で大会があります。ぜひ会場にお越しになってください。

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