鳥取県文化振興財団情報誌【アルテ】

10
2014October

鳥取県芸術家百華Vol.64 フランス国立リヨン歌劇場 ヴィオラ奏者 高見 長正 さん

トゥールーズでの第一印象は…?

“みんな思い切って弾く”ということでした。ヴィオラの一番後ろのプルト※2までです。気持ちよかった!

トゥールーズの街を歩いていても“人がゴツンゴツンとぶつかり合いながら生きているな”と感じました。音楽でも、私はこう感じています。“こういう音を出したい!”と弾くわけです。

そんな人間が100人集まれば、少々傷はあっても実にイキのいい音が出てきます。それともうひとつ大切な思い出は、作曲家マスネの歌劇「マノン」の録音に参加したことです。20年余り経ってはじめて聞きましたが、アルフレード・クラウス(20世紀後半のイタリアの偉大なテノール歌手1927-1999)をはじめとして歌手陣はもちろんすばらしい、しかしオケもとてもいい感じなのです。縦の線をあわせすぎた窮屈さがなく、音楽が横へ横へと流れていく…。

もう少し説明を…?

武満徹(たけみつ とおる)(現代音楽における日本を代表する作曲家1930-1996)は、バルバラ(フランスのシャンソン歌手・作詞家・作曲家1930­-1997)のシャンソンに聞き入って言葉と音符の間の“化学反応”を理解しようとしていたそうです。歌曲、オペラなどでは明らかですが、たとえばベートーベンのピアノソナタでも彼のしゃべっていたドイツ語が見えない影のように音符にくっついているのだと思います。トゥールーズの同僚たち(ほとんどがフランス人でした)は、プラッソン(トゥールーズ常任指揮者・音楽監督)の自然体の指揮にのって、マスネの音楽を今のフランス語よりももっと抑揚があって、流れるような自分自身のフランス語で、しかも実にシンプルな語り口で語ったのです。

公演のようす
フランス国立リヨン歌劇場管弦楽団

リヨン・オペラでの仕事について

我々のオペラは予算の関係でスター歌手、指揮者を呼ぶことはできませんが、明日のスターたちの大切なステップになっています。無名ではないけれどまだニューヨークやミラノに登場していない人たちがリヨンでいい仕事をし、評判をとって世界に羽ばたいていくのです。

もうひとつ特筆すべきは、オペラを市民に開いていこうという取り組みです。たとえば席が完売されてない公演に高校生を招きます。ピットに入っていくと場内がとてもざわついている、“あ、来ているな”とわかります。しかし音楽が始まるとシンとしてその中に入り込んでいるのが感じられ、終われば指笛を鳴らし、キャーキャー歓声を上げる…おそらくパリやミラノではみられない光景だろうと思います。

フランスの音

おいしい料理とワインを何時間もかけてにぎやかに楽しむ、休暇もめいっぱい取って思いきり遊ぶ・・・そういうとても元気なフランス人の出す音は、生き生きとして華やかです。とくに管楽器には今でもフランスの音の伝統が強く生きているように思います。みんなモーリス・アンドレ(フランスのトランペット奏者1933-2012)やランパル(フランスのフルート奏者1922-2000)の音を聴いて育ってきたからです。ヴァイオリンの場合は、50年代からすでにオイストラフ(ソ連出身ユダヤ系ヴァイオリニスト1908-1974)のようなロシアの巨匠たちが神様のような存在になり、80年代になれば東欧からたくさんのヴァイオリニストが移ってきた、その人たちが今の若い世代を育ててきたという事情もあって、あの往年のスアーヴ※3な弦の音はもう聴かれなくなりました。

10月20日(月)にはフランスの風(エスプリ)を十分感じることのできる演奏会『レ・ヴァン・フランセ』が鳥取市の梨花ホールで開催されます。鳥取の皆さんも高見さんのフランス“感”を、実際の音を通して感じることができると思います。

高見さんの今後のご活躍、日本の地でお祈りいたします。ありがとうございました。

※1 トゥールーズ・キャピトル管弦楽団:1945年以降に交響楽団としての活動を開始。昨年の「フィガロ」誌フランス・オーケストラ番付ではパリ管、パリ・オペラ座管と並んでトップに躍り出た。
※2 プルト:オーケストラで譜面台のこと。同じ譜面台を見る2人の弦楽器奏者を1プルトと呼ぶ。
※3 スアーヴ:SUAVE(形容詞)もの柔らかな、ていねいな

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