人間は誰でも年を追うごとに、体力が低下していきます。しかし、身体が衰えることと人生の衰退は別です。例えば、アスリートのように体力も精神力も求められる『役者』は、年を重ねるのと同時に芸に磨きをかけ魅力を増していきます。人が最も輝くとき=『全盛期』にスポットをあててみましょう。

プロスポーツ選手の全盛期

 スポーツ選手の“全盛期”について考えると、その人の活躍や記録、人気が全盛期のバロメーターになる場合が多いのではないでしょうか。例えば、サッカーやバスケットであれば得点数、野球であれば防御率や打率など、各選手の全盛期を語る上では多くの場合に活躍・記録が挙げられます。その活躍や記録に大きく関係しているのが『体力』です。
 文部科学省の体力・運動能力に関する調査結果(図1)によると、男女とも20歳以降は体力水準が加齢に伴い低下する傾向がある(握力を除く)と報告されています。どんな一流のスポーツ選手でも、年齢による反射神経の衰え、体力回復の低速といった影響を受けるときは必ず来るものなのです。

人が輝くとき

ダンサーの全盛期

 バレエやモダンダンスの世界でも、20歳の人と50歳の人とのあいだでは身体的能力に明確な差が出てきます。しかし、日本を代表する舞踊評論家・石井達朗さんは、NDTV※1)の公演を観て、「若手がもっていない深さと豊かさがあります。50歳のダンサーは20歳の人ほど高いジャンプはできませんし、美しい回転もできません。しかし、50歳のダンサーは20歳の人がもっていないものを豊富にもっているはずです。」と語っています。つまり、芸術という側面からみると、ダンサーにとっての全盛期は体力的にピークのときとは限らないのです。

※1)オランダのバレエ・ダンスカンパニー「ネザーランド・ダンス・シアター」(NDT)の40歳以上(従来ならば現役を引退したベテラン)のメンバーで構成されているカンパニー。NDTは年齢別の3つのカンパニーをもっている。

役者にとっての『気力』

 芸術の世界では指揮者やピアニスト、役者など年齢に関係なく現役で活動を続けている人が多くいます。そして、その中には、重ねてきた経験が財産となり、表現や技に深みが増すことで、パフォーマンスを評価される方も少なくありません。その背景には日々進化するために習練を積むことに加え、「エネルギッシュ」・「ポジティブ」・「アグレッシブ」な気持ち、つまり内なる力『気力』が大きく関係しているのではないでしょうか。
 俳優・松本幸四郎さんは“役者にとって年齢は財産か?”という問いに対し、役者には答えられない永遠の命題であると答えながらも、「演技とは、経験や技術が補ってくれることはあっても、それだけでこなせるものではない。演じることにおいて最も大切なのは、舞台に対する役者の真摯な気持ちなのである。」と役者としての心構えを述べています。多くの芸術家が生涯現役で活動を続けられる理由は、身体の衰えに負けない経験や技術だけでなく、芸に対する気持ちがとても大きく関係しているのです。

人の全盛期

 プロスポーツ選手や芸術家だけでなく、サラリーマンにも定年という「引退」の時期があり、多くの人がさまざまな形で「引退」や「退役」を経験するのかもしれません。しかし、“人”として生きている以上は『生涯現役』です。
 人生には誰にでも好不調の波があり、病気や事故、あるいは年齢からくる体力の衰えなど、どうしようもない問題も絡みます。その問題を跳ね返し、輝き続けることができる最大の要素は『気力』なのではないでしょうか。俳優やダンサーなど芸術家が強い精神力を持って自分の芸を磨き常に輝いているように、自分の人生と真摯に向き合い、精一杯生きることで誰でも今その一瞬一瞬を輝かせることができるのです。


参考文献

スポーツ選手のためのキャリアプランニング…
著  者:A.プティパ/D.シャンペーン/J.チャルトラン/S.デニッシュ/S.マーフィー
訳者代表:田中ヴェルヴェ京/重野弘三郎 (大修館書店)

身体の臨界点/著者:石井達朗(青弓社)
年齢は財産/編者:日本ペンクラブ(光文社)
文部科学省統計情報ー体育・スポーツに関する統計調査ー体力・運動能力調査
ー結果の概要ー平成22年度体力運動能力調査結果の概要及び報告書



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