女らしさ 男らしさ 自分らしさ

 「男は仕事、女性は家庭を守る」という考えはもう古いものでしょうか。2005年の国勢調査では、鳥取県の15歳以上の男女別就業者数は、男性95%で、女性75%です。また、主に家事を行っている男性は2%、女性は23%です。「主に家事を行っている女性」は2割という数字が多いか少ないかは捉え方によるでしょうが、内閣府の調査でも「夫は外で働き、妻は家庭を守るべき」という考えに反対する人の割合は高くなっています。(図1)

女性のライフスタイルの変化

 近年の少子化と平均寿命の伸びは、ライフサイクルを大きく変化させました。人生の折り返し地点にたどり着く前に末子の就学を迎え、末子が結婚した後にも2011年現在60歳の方で約25年の人生が残され、今後もさらに長くなる可能性があります。(図2)このような状況の中で女性が選んだ道は主として二つあります。一つは再就職、もう一つは社会活動を通した自己実現です。
 また、そもそも結婚をしない人も増えています。50歳の時点で一度も結婚をしていない「生涯未婚率」は、2005年、女性は7.3%で、1970年の3.5%に比べ、毎年徐々に増えています。一方、18〜34歳の未婚女性への調査では、90%の人が「結婚をしたい」と考えています。そして、結婚の利点のトップは「子どもや家族をもてる」(45%)で、独身の利点のトップは「行動や生き方が自由」(70%)という結果です。  

 

「男らしさ」感の変化

 一方「男らしさ」への捉え方も変化をしています。2004年には、韓国のテレビドラマ「冬のソナタ」の放映により、主役の男優ペ・ヨンジュンが、特に中高年女性に人気を博し、「ヨン様」ブームが起こりました。同じ年、日本のテレビドラマでは「電車男」がブームになっています。ほぼ同時期に人気作品となった二つの物語の主人公の男性像には類似点が見られます。それは、女性をグイグイひっぱり、「俺についてこい」式の無骨なタイプではなく、女性への思いを繊細に内に秘めたタイプであるという点です。
 無骨な「男らしさ」は女性たちからは期待されず、若い男性からも共感がもてないという認識でしょうか。

自分らしい生き方

 現代は、「男らしさ」「女らしさ」という単純なカテゴリーで括ることができず、物事を遂行する役割と周囲へ配慮する役割が共に求められる時代になっています。二つの役割のバランスが「自分らしさ」となり、「○○さんらしさ」という形で周りに理解されていくことになります。女性にとっても、「結婚しない自由」、「結婚しても外で働き続ける自由」、「子どもを産まない自由」など、多様な選択が可能になったかのようです。しかし、「出産しても仕事を続ける」という選択には、個人の頑張りだけでは乗り越えられない障壁が存在し、何かを犠牲にし、「自分らしい生き方」を選択している人も少なくないようです。

ヤング・プロデューサーズ・シリーズVol.2(演劇公演)

 若き地元アーティストや文化活動者をプロデューサーとして迎え、当財団と協働して自主制作公演を実施する「ヤング・プロデューサーズ・シリーズ」の第2弾は、イギリスを代表する女性劇作家 キャリル・チャーチルが1982年に書いた作品を、英国スコットランドのシティズンズ・シアターから演出家 ロズ・フィリップス氏を招いて、鳥取市出身の演劇活動者・永多寛佳氏による新訳書き下ろし+プロデュースで、鳥取の俳優たちと舞台化します。永多寛佳プロデューサーにお話をうかがいました。

今回のプロデュースへの意気込み

 私はこれまで、一役者として演劇に関わってきましたが、近年、公演を企画・制作して観客に届けるプロデューサーの大切さを痛感しています。このような大きな事業のプロデュースは初めての経験ですが、自分でなくてはできないことにぜひチャレンジしたいと、海外戯曲の翻訳も担当させていただきました。海外戯曲であっても、現代日本の観客の心に響く作品をリアリティのある言葉で届けたいという強い思いがあります。その中で巡り合ったのが『トップガールズ』でした。

作品「トップガールズ」について

 この作品が書かれた1982年は、『鉄の女』と呼ばれたマーガレット・サッチャーが英国史上初の女性首相として政権をとっていた時代で、当時のフェミニズム運動や女性のビジネス社会進出の光と影が、この作品の大きな軸となっています。サッチャーが推し進めた民営化や規制緩和、労使対策なども作品に影響を与えていますが、これらの政策は小泉政権下で行われた改革と方針としては同じで、失業者の増大や格差社会、地方経済の崩壊など、当時のイギリスと現代の日本には共通する問題がいくつもあります。そういう意味でも『トップガールズ』は現代日本に警鐘を鳴らす作品といえるでしょう。
 おもしろいことに、この作品には女性しか登場しません。世界中を旅した女性探検家、天皇の側室でありながら尼となって国中を行脚した日本女性、自身の性を偽り法王の座についた女性など、異なる時代を生きたトップガールズたちや、職業紹介所の社長に抜擢された女性、その姉と娘、求職中の若い女性、転職を考える中年女性、専業主婦など、様々な境遇にある16人の女性を7人の女優が演じ分けます。今回は原作と異なる配役としましたが、一人が演じる役の繋がりにも、ぜひ注目してほしいです。

現代の女性へ、そして男性へ

 現代の女性は、自身の歩む人生に迷い、揺れていると強く感じます。以前はバリバリ働くキャリアウーマンが脚光を浴びていましたが、現代の若い女性には専業主婦思考の回帰もみられ、女性の生き方を問い直す時代になっているのだと思います。これは女性に限らず、男性も同じです。価値観が多様化し、人生の選択の幅が広まった一方、この不況も影響して「こうすれば正解」という答えも見いだせず、生きることを怖いと感じることすらあります。私自身もその揺らぎを抱える一人ですが、『トップガールズ』の登場人物が発する言葉や彼女たちの生き様は、大きな衝撃でした。「男性」「女性」ということではなく、「自分らしい生き方」を求める全ての人にとって、この作品が生きるエールとなることを心から願っています。

 

イギリス文学のおススメ

 皆さんは、イギリス文学と聞き何が思い浮かびますか?もちろん古いところではシェイクスピアですが、あのハリー・ポッターシリーズの作者J・K・ローリングもイギリス出身です。イギリス文学には悲劇から喜劇、そして小説も説明不要なくらいたくさんあります。アガサ・クリスティ「そして誰もいなくなった」、シェイクスピアの「ロミオとジュリエット」、ディケンズ「クリスマス・キャロル」、ロレンス「チャタレイ夫人の恋人」など。また、忘れてはならないのがシャーロックホームズです。「名探偵コナン」の映画ではシャーロックホームズをテーマにしたものもあります。そして、007シリーズなどの冒険小説で有名なのはイアン・フレミング。本当にイギリス文学は著名作品の宝庫であるといっても過言ではありません。
 日本でイギリス文学が読まれるようになったのは明治以降で、島崎藤村、夏目漱石、坪内逍遥など多くの作家がイギリス文学を学びました。「トップガールズ」も現代のイギリスを代表する女性劇作家キャリル・チャーチルの名作です。



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