12
December
2010
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人を突き動かし、時に破滅までさせる恋。詩人ハイネは「“恋に狂う”とは、言葉が重複している。恋とは狂気なのである」と言う。作家の柴崎友香氏は、「恋愛は論理的に説明できなく、それが最も端的に現れるのがひとめ惚れという状態。何の理由もなく人は恋に落ちるのだ」と。 |
五代将軍徳川綱吉(つなよし)の治世、1688年からの16年間、歌舞伎などの芸能をはじめ絢爛(けんらん)たる美術や浮世絵など様々な文化が発展・拡大した元禄時代。その文化の担い手となったのは財力と見識を身につけた町人たちでした。 塩冶判官(えんやはんがん)のお屋敷で、判官の妻の腰元だったおかる。そんなおかるが恋に落ちたのは、判官の側近・勘平です。 大坂蜆川(しじみがわ)にある天満屋の遊女・お初。そんなお初が恋におちたのは平野屋の奉公人・徳兵衛。優男(やさおとこ)で仕事もできる徳兵衛にひとめ惚れでした。 |
この二つの物語は、それぞれ実話をもとに書き上げられた浄瑠璃作品です。 「人形浄瑠璃」には独特な作品のリズムがあり、一見無表情な人形によって淡々と演じられていきます。無力な人形たちが「切腹」「心中」という物語の結末にむけて、巨大な運命の力に翻弄されていきます。「人形浄瑠璃」のテーマは個々の人間ではなく、個々の人間を操る運命にある、といわれています。わが身に引き比べたり、身につまされたり…主人公のちょっとした心の弱い部分などに共感し、気持ちを共有しすすんでいく物語…是非同じ空間で体験していただけたらと思います。 【参考文献】 |
「曽根崎心中」の主人公お初と徳兵衛。お初19歳、徳兵衛25歳は元禄時代を生きた若者です。
統計数理研究所が5年ごとに行っている「日本人の国民性調査」によると、現代の若者たちは、1998年の調査結果で多かった「上司にあまりかまってほしくない」という意見は2008年調査では少し減り、「上司に自分のことをかまってほしい」いわゆる愛されたい若者が増えています。国民性調査で「人情課長」と呼んでいる“時には規則をまげて無理な仕事もさせるが、仕事以外のことでもめんどうみのよい”タイプの課長の人気が回復してきているのです。
心中をした「お初・徳兵衛」がシェイクスピアの「ロミオとジュリエット」と違う点のひとつに『相談相手がいたか・いなかったか』という点が研究者の中であげられています。もし誰か親身に二人の状況を聞いてくれる人がいたならば別の生きる道があったかも!?現代の若者が求めている「人情課長」の存在に通じるものがあるように思います。
古典芸能の作品の中にみる、若者の姿…あなたはどう見ますか?ちょっと視点を変えて観ることで、また違った若者の姿を見ることができるのかもしれません。
【参考文献】
● 「心中への招待状 華麗なる恋愛死の世界」 小林恭二(文藝春秋)
● 「国民性調査 第12次調査結果記者発表資料 抜粋」より 統計数理研究所