“生きることは感動するということ”

人は生きていく中で、実に多くのものに出会っています。
たくさんの人たちに出会い、初めての街や風景に出会い、味わったことのない美味(びみ)に出会う。
その一つ一つに感動を覚えることで人生はキラキラと輝きます。

感動が脳に与える影響

 『人間の脳は、たった一度の体験から実に多くのことを学ぶものである。ましてそれが初めての体験ならば、なおさらその影響は大きなものとなる。だからこそ、何事も本物を体験することが大切となってくる。』と脳科学者茂木健一郎氏は自身の著書で述べています。
 脳にとって無駄になる体験はなく、本物に触れ感動する体験が多いほど、前頭葉の働きは活発になるそうです。私たちは今、家の中のコンピューター画面を通して、わざわざ足を運ばなくても短時間で多くのものを目にすることができます。しかし、私たちが家の中でテレビやパソコンから多くの情報を得て体験したつもりでいても、それは記憶の片隅に残るだけで、脳に刻み込まれるほどの体験としては残りません。たとえば、いくら写真の中の伊勢神宮を眺めていたところで、創造力は湧いてくるものではなく、実物の圧倒されるような建築物を見て、初めて脳は触発されるのです。

本物の芸術が与える感動

 『本物』を体験する。それは芸術の分野においても言えることです。たくさんの人で埋め尽くされた大きなホールがしんと静まり返り、張り詰めた空間の中でいろいろな人格を演じる役者たちが創り出す別世界。たくさんの楽器から生み出される様々な音色が一つの美しい音楽として奏でられる生の演奏。自分の身体全体を使って直接感じる『本物の芸術』は、魂を揺さぶる大きな感動を与えてくれます。特に、毎日が新しい発見で満ち溢れている子どもたちにとって初めて体験する芸術が『本物』であれば、コンピューターの画面やテレビを通しての経験とは比べ物にならないくらい、新鮮で大きな感動を得るのではないでしょうか。
 感動といっても人によって様々な反応があります。内容はわからなくても楽しい雰囲気につられて踊りだす子や舞台上に作り出された世界に目を丸くして釘付けになる子、大きな音にびっくりして泣き出す子など、同じものを見ても子どもたちの反応は様々です。しかし、どの反応も初めて体験することで得られる『感動』の一つなのだと思います。感動というと、『美しい』『優雅だ』など心に潤いを与え、豊かな気持ちにさせてくれる印象を持ちますが、それだけではなく『悲しい』『怖い』『びっくりする』などハラハラ・ドキドキする気持ちも心を豊かにする感動と言えるのではないでしょうか。
 日々たくさんのことを吸収して輝きを増していく時期だからこそ、子どもたちにとって多くの『本物』を体験し、感動することは大きな意味があると思います。

 『感動することをやめた人は、生きていないのとおなじことである』
これは二十世紀最大の天才科学者と言われているアインシュタインが残した言葉です。人は成長するにつれて知識や経験が増えることで、目新しいことも少なくなり意欲が減退してしまいがちです。しかし、目の前の感動を見逃してばかりいると、人はどんどん輝きを失い、ただ肉体が活動しているだけで、人間として生きていないのと同じになってしまうのです。
 それに比べて子どもは、大人が『当たり前』と片付けてしまうことや特に興味を抱かないことにも驚くほど興味を示します。だんご虫を見つければ何度も触り、丸くなる様子を飽きもせず観察したり、水たまりがあればそこに足を踏み入れてみたりします。そんな気持ちを私たち大人はどこかに置いてきてしまったのではないでしょうか。
 大人は子どもたちのその好奇心をつぶさないよう出来る限り応援し、たくさんの可能性を諦めない意欲ある大人に成長させる責任があると思います。そのためには、自分たちのまわりに溢れているたくさんの感動を子どもたちから教えてもらい、感動する素晴らしさを子どもたちに伝えていける関係が必要なのではないでしょうか。
 『親子で、家族で芸術鑑賞をする』というのもそんな素敵な関係づくりの選択肢の一つだと思います。普段親子や家族で外にでかける機会はあっても、現実の世界から離れた創造の世界やプロの演奏家たちの演奏を大人も子どもも一緒に体験できる機会はなかなかありません。テレビやコンピューターの画面からでは味わえない劇場独特の空気を感じ、現実の世界とは違う夢の世界や生の演奏を身体全体を通して体験する。そんな本物の芸術からしか得られない『感動』を大人から子どもへプレゼントし、その瞬間に立会うことで、私たち大人もその新鮮な感動を子どもたちからおすそわけしてもらいましょう。

イベントクローズアップ 脳を刺激する体験を2つご紹介します。まずは9月に境港市で行われる人形劇「ゲゲゲの鬼太郎」。言わずと知れた境港市出身のマンガ家・水木しげるさん原作の作品です。近頃疲れ気味の鬼太郎は、ねずみ男の誘いにのって沖縄列島にある無人島、竜宮島に向かいます。美しい南国の海で楽しむ鬼太郎を突然襲った恐ろしく残酷な妖怪・バックベアード。沖縄に住む子どもの妖怪・キムジナーとシーサー、一反もめんや砂かけばばあ、ぬりかべといったおなじみの仲間とともに、鬼太郎たちと世界征服をたくらむ妖怪たちの戦いを描きます。人形劇団ひとみ座の新作です。その全国ツアーのスタートを切る公演が、水木さんご出身の境港市で行われることに何やら深い縁を感じませんか?
 2つ目は鳥取市で行われる音楽の演奏会、といっても普通の演奏会ではありません。演奏するのは動物たち!指揮をするまじめでしっかり者のオカピが率いるのは、孤高のトランペッター・インドライオン、北極での演奏に限界を感じていたチューバのホッキョクグマ、さびしさを紛らわせるために始めた演奏会が大評判の四姉妹ウサギといった個性豊かなメンバーで溢れています。「名前は知らないけれど聴いてみたら知ってる曲だった!!」親子でそんな感動体験に出会えるかもしれません。全国各地で完売御礼の「音楽の絵本」、ぜひぜひお見逃しありませんように。



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