人の声に近い楽器チェロの魅力

男性の話し言葉と同じ音域で、音色そのものが人の声のような
温かみがあるチェロについていろいろな視点で紹介します。
飴色に光り輝く美しいチェロの秘密を知り、
ぜひ、その音色も鑑賞してみてください。

『チェロ』という名前

 「チェロ」という言葉は、イタリア語の「Violoncello」に由来しています。本来「cello」とは、イタリア語で「小さな」という意味で、「小さなヴィオローネ」という意味になります。ヴィオローネはコントラバスの元になった楽器です。「Violoncello」が英語圏に入って「Cello」と略されました。
 明治12年、明治政府はボストンからルーサー・ホワイティング・メーソン氏を音楽教師として招きました。彼が「セロ」という表記を使ったため、日本では「セロ」となりました。
 その後、昭和15年の演奏会で「チェロ」という表記が出始め、戦後は一斉に「チェロ」表記になりました。アメリカ人教師が起源となった「セロ」という言葉が、当時、敵国語としてひっかかったのかもしれません。

『チェロ』という楽器

 16世紀前半にあらわれ、イタリアでは1600年頃までに一般に普及していました。ヴァイオリンやヴィオラとほぼ同じ構造ですが、低い音を出すために形全体が大きく、特に厚みが増しています。弦も太く丈夫に作られています。それに伴って弓もヴァイオリンなどより太くなっていますが、長さは逆に短いです。
 表板には、エゾマツやカラマツを使います。木にカンナをかけて板や棹を彫り出し、それを組み立て、ニスを塗ります。ニスは何回も何回も砥粉やグラスペーパーで削っては塗り、削っては塗りして丁寧に仕上げます。この間、熟練した職人の微妙な技術と大変な労力・時間を費やすため、製作者の魂が乗り移るといわれるくらい、その人そのもののような作品になります。
 受け持つ音域からすると、チェロはもっと大型化すべき楽器ですが、演奏が困難になるので、現在のサイズになっています。弦の長さも今以上長くできないので、巻線(ガットや合成繊維に金属線を巻いたもの、若しくは、スティール線に金属線を巻いたもの)を使用するなどして、低い音を出すようにしています。

『チェロ』のエンドピン

 チェロの弦を弓でひくと胴体が振動して音が出ますが、エンドピンにより振動が舞台の床に伝わって共鳴させることができます。そのため、コンチェルト(協奏曲)を弾くときにはプラットフォーム(箱形の山台)に乗り、プラットフォームを振動させて音を大きくします。
 しかし、エンドピンにはデリケートな問題があり、演奏中、ピンの先に相当な負担が掛かるため、先が鋭くないと、すべってしまいます。また、普通は、ピンをお尻から引っ張り出して止めますが、締め方が十分でないと、弾いている最中にピンが胴体の中に戻ってしまいます。
 もともと、チェロにはエンドピンは付いていなくて、両膝で挟み、楽器を浮かせて演奏していました。19世紀後半、ベルギー人のフランソワ・セルヴェという名チェリストは、小柄だったため、抱えて演奏することに大変苦労していました。楽器に棒を差して演奏してはどうだろうと思いつき、そこからエンドピンが使われるようになりました。この大胆な発想で、楽器の保持が楽になり、演奏技術が飛躍的に発展しました。


宮沢賢治のチェロ

 日本で有名なチェロの一つは、花巻市の宮沢賢治記念館に展示されている宮沢賢治(※1)のチェロではないでしょうか。『セロ弾きのゴーシュ』には、賢治自身が実際にチェロを練習した経験が反映されていると言われています。展示されているチェロは、親友の音楽教師 藤原嘉藤治から宮沢家に返還された楽器です。藤原が穴あきのチェロで盛岡の演奏会に出演することを知った賢治が、自分のチェロと交換したため、藤原が所蔵していました。
 賢治のチェロの先生は、当時、結成されたばかりの新交響楽団(現NHK交響楽団)のトロンボーン奏者でチェロもたしなんだ大津三郎でした。「3日間でセロの手ほどきをして貰いたい」と練習場のオーナー経由で頼まれ、仕方なく引受けたそうです。
 1996年には、ヨーヨー・マ(※2)が、このチェロで「トロイメライ」を演奏し、多くの聴衆に感動を与えました。
※1 宮沢賢治(1896年?1933年)詩人で童話作家。没後、世評が急速に高まり国民的作家となった。「銀河鉄道の夜」「風の又三郎」など多数の作品が愛されている。
※2 世界を代表するチェリストの一人で日本での人気は絶大。サントリーのCMでは、「リベルタンゴ」(A.ピアソラ)を演奏した。
参考文献/「チェロと生きる」堤剛、「新編 音楽中辞典」堀内久美雄発行、「チェロと宮沢賢治」横田庄一郎



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