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リレーコラムvol.16 多様性のある人間を(財)鳥取県文化振興財団 評議員  角 秋  勝 治

 クラシックは敷居が高い。演劇や文学は難解。美術は特定人のもの−と敬遠されがちな現実。大人が無関心では、子どもが良質な作品にふれる機会も少なく、郷土は文化も「陸の孤島」であった。この閉塞感を打開して県民がアートを享受し、自らも創造に参加しようと働きかけるのが、県文化振興財団や県総合芸術文化祭の使命であろう。
 思い出せば敗戦直後に抑圧から解放された日本人が、毎日の食事にも事欠きながら求めたのが美術・演劇・音楽・文学などのアートであった。ユダヤ人は強制収容所で人間の尊厳を守るために、命の危険を冒して密かに大量のスケッチや作曲をしている。ソ連崩壊後も、飢えた国民はパン屋に並ぶ一方で音楽堂前に行列をつくった。
 経済や政治がなければ社会は成立しないが、それだけでは満たされない心の溝を埋め、人間のありようを探るのがアートである−と私は理解している。とすればそれは敷居が高く、特定の世界として敬遠すべきものではあるまい。アートが偏見や差別も超えて「日常の糧」となり、政治理念の根本として「存在する」理由もそこにある。
 願いは一つ。教育現場と両親の理解、そして地域や政財界の協力によって、山陰の郷土に豊かな文化芸術の華が開くことを祈りたい。未来を担う若者たちが、管理社会で無機質にロボット化されることなく、「多様性」のある情感豊かな鳥取人を育むために。



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