至高の芸術であるオーケストラ。そのオーケストラという個性豊かな演奏家の集団をタクトひと振りでまとめあげてしまう指揮者。そんな指揮者に憧れを抱いたことは、誰しも一度はあると思います。指揮者に求められるものは、各演奏者とのコミュニケーション能力と、メンバーを束ね自在に操るリーダーシップ。そして名指揮者には、個性とともに共通した4つのパワーがあるとされます。
例えば正確なテンポ感と聴覚の鋭さという『音楽的才能をベースとしたパワー』をもっていた「独裁者」トスカニーニ。練習場に姿を現すだけでベルリン・フィルの楽団員たちの態度が一変し、緊張感が漂ったといわれるほどの『心理学的能力をベースとしたパワー』をもっていた「巨匠」フルトヴェングラー。晩年健康を害しながらも81歳まで指揮台に君臨するという『肉体的な強さをベースとしたパワー』をもっていた「帝王」カラヤン。そしてなげかけたひと言が地域を巻き込んでしまう『政治的能力をベースとしたパワー』をもつ「魔術師」小澤征爾。信州・松本でのサイトウ・キネン・オーケストラは「16年続いたこの音楽祭を点ではなく線として継続したいと思いますので協力してください」という小澤のひと言が驚異的な素晴らしい世界レベルの音楽祭をつくりあげたのです。これらの4つのパワーに基づくリーダーシップが、オーケストラに影響を与え、すばらしい演奏へと導くのだそうです。
このたびのN響においてタクトを振るのは、弱冠35歳で、1885年創設のボストン・ポップス・オーケストラの第20代指揮者に就任したキース・ロックハート。彼がどのようなリーダーシップで鳥取公演を魅せてくれるのかとても楽しみです。
またオーケストラの演奏価値をつくりだすためには観客もその一因といわれています。是非同じホールで感動を共有し、すばらしい演奏を共創してみてはいかがでしょうか。
■参考文献:『オーケストラの経営学』大木裕子(東洋経済新報社/2008) |