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リレーコラムvol.13 本物を探して(財)鳥取県文化振興財団 理事  古瀬  美保子

 本物とは何か?私に一番かかわりの深い音楽について考えていることがある。
 人々が音楽に主体的にかかわりを持つのは、学校の授業とかピアノを習いに行くとかに始まる。そうして音楽に親しみ、自分でも演奏し、広い教養となって生活に潤いや喜びを加えている。
 なかには、もっと上手になりたい、極めたいと思うようになる人もいる。その人たちが研鑽を積み、ほんの一握りの人が頂点に向かって進む。そのとき、技術的にはもちろん高いレベルが求められるが、プラスしてその人の育った国の文化、生き方、考え方などがいかに表現でき、そのことが“鑑賞者にいかに感動を与え、人生観に影響を与えることができるか(私の恩師の教え)”となると簡単ではない。
 私は、数年前京都で開催された「世界合唱の祭典」の会場での体験が忘れられない。それは、コンゴやグアテマラの合唱団による心の底から溢れ出てくる民族性豊かでかつ魂に訴えかけるような合唱や、ヨーロッパの教会音楽に発する美しく透明なハーモニーを聴いたときと相通ずる感動を、日本人の演奏では合唱ではなく、なんと比叡山延暦寺の僧侶たちによる「声明(しょうみょう)」を聴いたときに味わったということだ。目から鱗が落ちるとはこのことかと思うほどの感慨深いこの体験は、今も私に「本物とは何か」を問いかけている。日本人にとって、慣れ親しんできたつもりでも、西洋音楽はまだまだ消化しきれていないのか。



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