音が描く風景画「四季」

誰もが一度は耳にしたことのあるヴィヴァルディの「四季」。
今秋、米子市でイ・ムジチ合奏団の公演が行われるのに先駆け、「四季」の秘密をほんの少しご紹介します。
ヴァイオリン協奏曲集「四季」とは?
 あまりに有名な曲なので、独立した協奏曲と思われるかもしれませんが、実はヴィヴァルディの作品8『和声と創意への試み』(全12曲)の最初の4曲「春」「夏」「秋」「冬」を総称して、私たちは「四季」と呼んでいます。
 ヴィヴァルディは、のちのバロック協奏曲のモデルとなった「協奏曲形式」を確立しました。曲が“急−緩−急”の3楽章でできていること、3楽章のうち両端の急速楽章(テンポの速い楽章)にリトルネッロ形式(後述)を用いているといった特徴があります。「四季」もそれぞれ3楽章、計12楽章で構成され、そのすべてが“急−緩−急”とリトルネッロ形式が採用されています。
 そのほかに「四季」を説明するキーワードとして、ソネットがあります。ソネットとは、14行から成るヨーロッパの定型詩で、ヴィヴァルディは作者不明のソネットをもとに「四季」を作曲しました。詩と音楽が密接にリンクしている為、演奏を聴きながら季節の情景を想像することができます。例として、一番耳に馴染みがあるであろう「春」を取り上げてみます。
言葉と音の一体化 〜「春」より
まずは、「春」のソネットをご覧ください。
春がやってきた、そして小鳥たちは
うれしそうに歌って春に挨拶する。
泉はそよ風にあわせて
やさしくささやきながら流れ出す。
やがて空は暗くなり
雷鳴と稲妻がおそってくる。
嵐が静まると、小鳥たちは
ふたたびうれしそうに歌いだす。







第1楽章(急速楽章)
アレグロ [速く]
花ざかりの美しい牧場では
木々の葉がやさしくざわめき
羊飼いは忠実な犬をかたわらに眠っている。


第2楽章(緩徐楽章)
ラルゴ [幅広く緩やかに]
牧歌風な牧笛の陽気な調べにあわせて
ニンフと羊飼いは愉快に踊る、
輝くばかりの装いの春のなかに。


第3楽章(急速楽章)
アレグロ [速く]
このソネットに沿って、「春」は演奏されます。最初の部分を見てみましょう。

 第1楽章の出だし部分である12はおなじみのリズミカルな旋律で、春がやってきた弾むような喜びを私たちに想像させます。
 続く34で、小鳥たちが登場。耳を澄ませてみてください。ヴァイオリンが独奏で鳥の歌声やさえずりを聞かせてくれます。

 ソネットに沿って曲は進み、5では、ヴァイオリンが弱めの音で泉がゆったりと流れる様子を描いていきます。
 45それぞれのあと、また独奏部分のあとにも、 が調を変えて繰り返し出てきます。この繰り返しの旋律部分をリトルネッロと呼びます。ロンドが同じ調で繰り返されるのに対し、リトルネッロは転調しながら繰り返すところが特徴です。このリトルネッロに注目して鑑賞するのも良いですね。
 第2楽章は、一転して緩やかな曲調(ラルゴ)となります。木々のざわめきや犬の鳴き声も忠実に演奏されますよ。ヴィオラが担当する犬の鳴き声を聞き取ってみるのも、楽しみの一つです。
 言葉での説明では限界がありますが、ホールで実際に演奏を聴いていると、まるで曲に合わせてうららかな春の風景画が次々に映し出されていくようです。日本とはまた違ったイタリアの四季を、音楽で感じてみてはいかがでしょうか。
 今回ご紹介できなかった「夏」「秋」「冬」のソネットも、HPに掲載しています。鑑賞前の予備知識として是非ご覧ください。
 http://www.torikenmin.jp/ → 公演のご案内 → イ・ムジチ合奏団 米子公演
指揮者を置かないソリストの集団
 イタリアの弦楽合奏団「イ・ムジチ」といえばご存知の方も多いのではないでしょうか。「イ・ムジチ」とはイタリア語で「音楽家たち」という意味。1952年に結成し、世界中でヴィヴァルディの「四季」を有名にしたクラシック界のスター・アンサンブルです。余談ですが、参考曲の演奏者として中学生の音楽の教科書にも名前が載っています。
 この秋、「イ・ムジチ合奏団」が米子市公会堂にやってきます。
 一流の合奏団によって磨き上げられた「四季」を堪能するチャンスを、どうぞお見逃しなさいませんように。芸術で彩る秋の一日をお過ごしください。

■参考文献
(1)作家別名曲解説ライブラリー21「ヴィヴァルディ」(音楽之友社/1995年)
(2)中学生の音楽1(教科書)(教育芸術社/2009年)
(3)vivaldi THE FOUR SEASONS I MUSICI(フィリップスレコード


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