鳥取県民文化財団情報誌 アルテ
2008年12月
アルテとはスペイン語で「芸術・美術・技巧」などの意味で、英語では「アート」。アルテでは、県民文化会館をはじめ鳥取県内の文化施設のイベント情報を紹介しています。

演劇は時代の鏡
本年度の鳥取県演劇創造事業は、平成19年度に実施した戯曲講座から生まれた新作戯曲を上演します。戯曲講座では、昭和30〜40年代の高度成長期、鳥取県で起きた事象を捉え、現代の視点で見つめ直すという取り組みを行いました。上演に当たっては、演出家の古城十忍氏を迎え、この50年間の社会の流れや鳥取の人々の生活環境の変化を感じて頂けるような作品を創っていきます。作品創造について、キーマンのお二人に話を聞きました。
演出家 古城十忍さんにお話を伺いました。

今月の顔

古城十忍(劇作家・演出家)
熊本日日新聞社入社、政治経済部記者を経て、1986年に劇団一跡二跳を旗揚げ。2005年に文化庁新進芸術家派遣でロンドンおよびスコットランドに留学。
2008年主な作品 作・演出『流れる庭−あるいは方舟−』(出演:劇団一跡二跳)、演出『貴婦人の帰還』(出演:長山藍子、萩原流行他)
古城さんは、社会的な問題を扱う公演を多く手掛けておられますが、意識して選択されていますか?
活字の中で、旬があるのは演劇だけだと思うんです。時代と添い寝するのが演劇なので、一夜明けると古くなってしまう。今、「何が問題なのか」、「何を考えないといけないのか」が重要だと感じています。私は、今しか興味がないんです。今を考える為には、旬の話題でなければ説得力がないと思うんです。
過去に書かれた戯曲や、翻訳劇も行いますが、それは現代の羅針盤として捉えています。例えば、今年の10月に上演した『貴婦人の帰還』(作:フリードリッヒ・デュレンマット)は、53年前に書かれた戯曲ですが、現代の格差社会そのものを表しています。今、上演する意味がある作品だなと感じて取り組みました。
「ドキュメンタリー・シアター」について教えてください。
イギリスに留学していた時に出会った演劇です。イギリスではよく上演されていますが、日本では上演されていなかったので、挑戦してみたいと思ったんです。
「ドキュメンタリー・シアター」とは、一つのテーマについて、様々な立場の関係者に取材し、印象的な言葉を台詞にしていきます。けれど、取材インタビューの模様をそっくりそのまま再現するのではなく、得た言葉をもとに演劇の手法を用いながら「新たな世界」を再構築して観客の皆様に提示していきます。
演劇は、現代を映す鏡であるべきだと考えています。しかし、私が書く戯曲は、フィクションの言葉です。「ドキュメンタリー・シアター」の手法を用い、リアルな言葉で演劇を創ることで、より鏡に近づくのではないかと考えました。
昨年度、オリジナルで自殺をテーマにした『誰も見たことのない場所』という作品を創る事が出来ました。自殺未遂経験者、遺族、自殺サイト管理人、警官、牧師、引きこもりの方など50名以上の方に取材をし、リアルな言葉を集めました。とても作家の頭では組み立てられないような言葉の数々でした。また、50名もの方々に同じテーマでお話を聞くと、何が問題なのかが明確に見えてきました。70〜80時間に及ぶレコーダーを聞いては書き取り、言葉を選び出すのは大変な労力でしたが、2年に1回は制作したいと思っています。
演劇大学の講師として、3年間、鳥取県にお越しになっていますが、どのような印象ですか?
鳥取県のように地域で演劇事業を行っている所は、演劇を根付かせたいという一生懸命な気持ちをとても感じます。それと、鳥取県の演劇活動者はまじめで、あったかい感じがします。講師の立場からするとやりやすかったです。
東京には、「友達にはなりたくないけど、いい俳優」がいます。地域でも、自分の楽しみを追求するという活動者も結構いらっしゃいます。それに比べ、鳥取は、「みんなが同じ目標に向かって邁進していく」という印象があります。
今回上演される『頭の中の千匹の蜂』についてお聞かせください。
タイプの違う二人の女教師が登場します。この二人の在り方が面白いと思っています。一人は、学生運動に参加していましたが、その活動が自分の中で未消化なまま教育現場に入る事になります。もう一人は、管理教育の中に身を置き、違和感を持ちながらもその流れに邁進していきます。時代設定は、昭和47年です。現代は、当時より生きにくい世の中になっているような気がします。この公演を観ていただいた方に、人へどう接していくのか、社会に身を置くとはどういう事なのかを考えるキッカケになればいいと願っています。

昨年度の戯曲講座を経て、作品が上演される事に決まった劇作家 大和屋かほるさんにお話を伺いました。

昨年度の戯曲講座他県でも戯曲講座を受けましたが、昨年度の鳥取県の戯曲講座は特別でした。それは、講師が劇作家でなく演出家である点、見学者がいるという点です。講師である西川信廣(にしかわのぶひろ)氏(劇団文学座・演出家)は演出家の視点でアドバイスをなさいました。上演した場合、どんな効果や不都合があるか、どう見せていくのかというご指導だったと思います。 またこの戯曲講座は、選ばれれば上演されることが前提でした。それがあったから受講生全員が作品を完成させられたと思います。毎晩机の前で苦しんで書いた言葉を俳優の方が自分の身体で表現してくれるというのは、書く人間にとって最大の喜びです。書くのは孤独な作業ですが、それが多くの人に広がっていく喜びを持たせていただきました。 

演出家古城十忍氏プロの演劇人としての論理的かつ直感的な鋭さを感じました。「この流れでこの台詞が出てこないのはおかしい」とか「こういう言い方はしない」など、微妙な違和感を与えている原因をピンポイントで指摘されました。古城さん自身には、譲れない人間観や戯曲観をお持ちの方だと感じました。しかしそれを押しつけるのではなく、私自身のそれらと対峙させようと働きかけてくださいました。私が力不足でなかなか対決までに至らないのですが、こちらの劇作観が揺さぶられて、大変勉強になりました。

 作品『頭の中の 千匹の蜂』今まで教師の世界を書いたことはありません。それは自分が教師なのでいろんな意味で誤解されるのでは(笑)と思ったからですが、古城さんから「教員の世界はおもしろいよ」と背中を押されました。題材として指定のあった「昭和30〜40年代の鳥取県で起こった出来事」のうち、昭和47年の大山国体とその前日に起こったあさま山荘事件が引っかかりました。華やかな国体と時を同じくして陰惨な事件が起こっている。活気あふれる高度成長の裏で個人がどう生きようとしたのか、また生きられなかったのか、そこが描けたらと思いました。未熟な戯曲ですが、古城さんにどのように演出していただけるのか、本当に楽しみです。

劇作家・日本劇作家協会会員大和屋かほる(本名・森川 剛)
鳥取県立米子高等学校教諭
鳥取県米子市淀江町生まれ。法政大学文学部日本文学科卒業。
如月小春氏に「演劇と教育」を、岩崎正裕、松田正隆、斎藤憐各氏に劇作を学ぶ。
03年より鳥取県文化振興財団主催「ふるさとの文学を題材とするドラマリーディング」に演出・演出助手で参加。
07年より「鳥取県演劇創造事業」に劇作・演出助手で参加。
おススメBOOK
劇作家のお二人に、今、勧めたい本をご紹介頂きました。
古城さんのおススメ
『わたしを離さないで』カズオ・イシグロ著 早川書房
最初、「提供者」という言葉が出てきて違和感がありますが、それが何を表しているかが明らかになるにつれ、物語に引き込まれていきます。最後には泣けて仕方がない作品です。
大和屋さんのおススメ
『李陵』中島敦著 新潮文庫
大学時代に読んで打ちのめされました。それ以来読み返しています。母国に忠誠を誓う李陵、孤独な文人・司馬遷、不屈の人・蘇武。それぞれが年齢とともに違う意味を持って迫ってきます。
平成20年度 鳥取県演劇創造事業
頭の中の千匹の蜂
作/大和屋かほる
演出/古城十忍
出演者/森田貴子、加藤裕美、國岡純子、麻吹一真、加藤浩史、松本健一
2009年1月24日(土)・25日(日)
開場17:30 開演18:00
開場13:30 開演14:00
会場:鳥取市民会館
チケット(全席自由):
一般: 前売 1,000円(900円) 当日 1,500円
大学生以下:前売    500円(400円) 当日 1,000円
※電話予約あり
※( )内は財団友の会・団体10名以上料金
プレイガイド:
【東部】とりぎん文化会館、エル・パパ(イオン鳥取北店)
【中部】倉吉未来中心
【西部】ビッグシップ
助成:財団法人 地域創造
お問合せ先:西部駐在(0859)38-5127
チャレンジウォッチャー(事前申込みが必要)
小学校高学年・中学生の方は、チャレンジウォッチャーとして無料で鑑賞いただけます。
ただし、観賞後に感想文の記入をお願いします。
※児童向けの作品ではありませんので、ご承知の上、お申込みください。
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