鳥取県民文化財団情報誌 アルテ
2008年9月
アルテとはスペイン語で「芸術・美術・技巧」などの意味で、英語では「アート」。アルテでは、県民文化会館をはじめ鳥取県内の文化施設のイベント情報を紹介しています。

『音楽の神童』&『不滅の楽聖』

大好評の『鳥取県出身のアーティストによるコンサート こどもの楽園』が、今年はモーツァルトとベートーヴェンの出逢いをテーマにおこなわれます。幼い頃からその才能を発揮した音楽の神童(しんどう)モーツァルト、音楽史に多くの功績を残した不滅の楽聖(がくせい)ベートーヴェン。
言わずとも知れた大音楽家の二人ですが、裏には、意外なエピソードや謎が秘められているものです。
今回は、彼らがなぜ『神童』・『楽聖』と呼ばれるかについて、少し触れてみたいと思います。

記念すべき第1作モーツァルトの最初の作品(※1)は、彼の即興演奏を聴いた父レオポルトが、《ナンネルの楽譜帳》の余白に書き込んだものです。
モーツァルト自身が一人で楽譜を書いた最初の作品は、彼が8歳の年(1764年作 推定)に作曲したメヌエット(※2)です。この曲は以前、1曲のメヌエットとしてケッヘルの初版では「K.1」の番号を与えられていましたが、その後の研究で別々の作であると推測されるようになりました。
父レオポルトが書き込んだ5歳の作品と、モーツァルト自身が書いた8歳の作品のどちらが「記念すべき第一作」なのか、あなたならどちらをそれと認めますか?
※1) 《クラヴィーア独奏のためのアレグロ ハ長調 》
※2) 《クラヴィーア独奏のためのメヌエット ト長調 K.1e 》《メヌエット ハ長調 K.1f 》

最後の作品モーツァルト最後の作品といえば、おそらく誰もが作曲者の死によって未完に終った《レクイエムK.626》とこたえるでしょう〔〈ラクリモーザ(涙の日)〉で絶筆〕。しかし、未完のものを作品と呼ぶかは判断が分かれるところだと思います。
なお、最後に完成させた作品は『自作品目録』の最後に記載された曲です。
モーツァルトは他にも仕事を抱えていて、未完の曲は《レクイエム》だけでなく、「第1番」と知られる《ホルン協奏曲ニ長調K.412》もその一つと推測されています。
《レクイエムK.626》《ホルン協奏曲ニ長調K.412》共に、弟子のフランツ・クサーヴァー・ジュースマイヤーによって完成された作品です。

作風の集大成交響曲第九番は、ベートーヴェン晩年の1824年に完成した最後の交響曲で、最大の特徴は、合唱を取り入れているところです。そもそも声楽と交響曲は交わらないものと長年考えられてきましたが、ベートーヴェンによって一般的な形に仕上げられました。
第一楽章の冒頭ではテレビCMなどでも使用されるフレーズが提示され、反復演奏によって内容がどんどんと膨らんでいきます。第九は、第一楽章からクライマックスとなる「歓喜の歌」への伏線が張り巡らされていくという、計算された構成になっています。弦楽器の軽やかで心地よい音の重ね方や、管楽器によるメロディの盛り上げ方など、まさにベートーヴェンの作風の集大成であるといえます。「歓喜の歌」自体は単品でも十分に素晴らしい楽曲であるといえますが、時間を掛けて第一楽章から通しで聴くことでその魅力は何倍にも高まるのです。

バルトの楽園2006年に『バルトの楽園』という映画が公開されましたが、この映画のストーリーの主軸におかれているのが、ベートーヴェンの代表作、交響曲第九番です。
日本において、第九が初演奏されたのは第一次世界大戦真っ只中の1918年のことです。当時の日本軍は、ドイツが押さえていた青島を攻略し5000人近くのドイツ人兵士を捕虜としました。そのうちの1000名が現在の徳島県鳴門市に作られた「坂東俘虜収容所(ばんどうふりょしゅうようじょ)」に送られ、終戦までを過ごしました。この収容所の所長を務めた松江豊寿(まつえとよひさ)は人道に則った扱いを行い、現地の住民とドイツ人の間の交流を促進させたのです。後にスイスに移されたドイツ人捕虜たちは「松江ほど素晴らしい捕虜収容所の所長はいない」と評しています。この時、ドイツ人捕虜によって結成されたオーケストラによって1918年6月1日に、日本で初めての第九演奏が行われ、このエピソードが、前述の映画『バルトの楽園』の元になっています。
交流を深めた友人や不滅の恋人の存在、音楽と難聴を通して生きていることの素晴らしさを知っているベートーヴェンは「友人や愛する人のいる人生の素晴らしさ」を第九にこめたのです。だからこそ、200年近くも人々に受け継がれる不滅の音楽となったのではないでしょうか。

インタビュー
 
新真二(あたらししんじ)
プロフィール
大阪フィルハーモニー交響楽団 首席コントラバス奏者
財団法人鳥取県文化振興財団 文化芸術アドバイザー
鳥取県出身のアーティストによるコンサート こどもの楽園 プロデューサー(2006〜2008)
出逢いと発見
初年度は、モーツァルトがひょっこり鳥取に現れ、昨年は「モーツァルトが来たらしいね」と、ベートーヴェンが鳥取に遊びに来てアキラ(宮川彬良)と遊びました。生涯で一度だけウィーンで出逢っている二人が、今年は米子でアキラと再会します。同じ天才でも、モーツァルトは瞬間ひらめき型、ベートーヴェンは長期集中型と言われ、タイプは全く違っていました。それはいったいどういうことなのか、この演奏会で探っていきます。
世界は、あらゆる個性や能力をもった人々が出逢い、認め合いながら成り立っています。今回は人との出逢い、また魅力を発見することの素晴らしさをテーマに繰り広げられます。
三年間をふりかえって
親子向けのコンサートは、親が「子どものためになるだろう」とお子様を連れて行くことが多いと思いますが、逆に子どもたち自身が、親の手をひっぱってきてくれるようなコンサートを創りたいと思いました。子どもたちが夢中になり、積極的に来たいと思うコンサート、また若い世代の子どもたちが、将来自然にホールに足を運んでくれることを願い、街の広場として、地域の人たちに愛されるホールになるようなコンサートを行い、子どもたちと一緒に来られた親さえもが一緒になって楽しめる、そんなコンサートを企画したかったのです。
この事業は三年をかけて行う構成で考えていて、一年・二年と鳥取で行なってきましたが、お客様から西部開催の強いご要望をいただき、ようやく米子で行える事となりました。本年度はモーツァルトとベートーヴェンの二人が米子に現れるという豪華な構成になっています。
このコンサートは、県出身・在住アーティストの皆さんが中心になって演奏会を行うわけですが、本当にこのコンサートを心から楽しんでくれて、毎年心待ちにしてくれているという言葉を聞くとプロデューサーとして大変ありがたいと思っています。心より感謝いたします。
CD【音楽】DVD【映画】紹介
DVD◎ バルトの楽園
出 演:松平健、ブルーノ・ガンツ、阿部寛、高島礼子、國村隼
監 督:出目昌伸
販売元/東映
時 間/134 分 
CD◎ レクイエム
作 曲:モーツァルト
指 揮:ベーム(カール)
演 奏:ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団
レーベル/ユニバーサル ミュージック クラシック
収録時間/64 分 
CD◎ フォレスティエ指揮オーケストラ・アンサンブル金沢
作 曲:プーランク、ジョリヴェ、ミヨー 
演 奏:オーケストラ・アンサンブル金沢 
レーベル/ワーナーミュージック・ジャパン 
収録時間/56 分
※音楽物語「子象ババールのお話」収録
第6回鳥取県総合芸術文化祭主催事業
鳥取県出身のアーティストによるコンサート
平成20年度文化庁芸術拠点形成事業
こどもの楽園V
音楽の神童モーツァルトにアニメ『ワンピース』ルフィーの声で大人気の声優、田中真弓さんが扮し、悲劇の楽聖ベートーヴェンには『仮面ライダーアギト』の主題歌を歌う、石原慎一さんが扮して大活躍!
NHK教育番組『クインテット』のアキラこと宮川彬良さんと意気投合し、出逢いをテーマに音楽会は進んでいきます。人と人との出逢いの大切さとは・・・。
【第1部】『小象ババールの物語』〜こどもたちと大人のための音楽絵本
【第2部】地球はトモダチでいっぱい!〜モーツァルトとベートーヴェンとアキラで『出逢いを考える音楽会』
2008年11月3日(月・祝)
開場12:30  開演14:00  終演(予定)16:00
会場:ビッグシップ 多目的ホール
チケット:全席指定
こども[3歳以上]:500円
中学生〜高校生:1,000円
おとな[大学生以上]:2,500円(2,000円)
※( )内は、財団友の会・団体10名以上料金
プレイガイド:
【西部】ビッグシップ、米子市児童文化センター、本の学校、平田楽器店、ホープタウン、カワイ楽器(米子店)、 エル・パパ(ジャスコ日吉津店)
【東部】とりぎん文化会館(鳥取県民文化会館)
【中部】倉吉未来中心
【県外】しまね文化情報コーナー、プラバホール
共同主催:鳥取県総合芸術文化祭実行委員会
協賛:(有)西川ピアノ調律所
要予約託児サービス(無料)定員あり送迎バス(無料)定員あり申込締切 10/20(月)
お問合せ先:とりぎん文化会館(0857)21-8700

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