鳥取県民文化財団情報誌 アルテ
2008年5月
アルテとはスペイン語で「芸術・美術・技巧」などの意味で、英語では「アート」。アルテでは、県民文化会館をはじめ鳥取県内の文化施設のイベント情報を紹介しています。

 
 クラシック音楽のオーケストラは、様々な楽器を奏でる演奏者、そして演奏をまとめる指揮者から編成されています。しかし普段、私たちはオーケストラ公演を鑑賞する機会はあっても、音楽家と接する機会は少なく、その性格や考え方などをあまり知りません。作品にそれぞれの旋律があるように音楽家にもいろいろなタイプの方がいるのでは?
 今回はそこにスポットを当て、ちょっと変わった角度から“音楽家の真相!?”について探ってみました。
茂木大輔さんにお聞きしました。
 茂木さんは興味ある音楽を一人でも多くの方に知っていただき、感動を共有することを願って指揮活動をされているそうですが、指揮者になったきっかけをお聞かせください。
 三鷹市芸術文化センターで、自分の本「楽器別人間学」のコンサートをしましょう、ということになり、大人向けにひとつずつの楽器を徹底的に解説するコンサートを開催しました。そのとき、かねて夢であった指揮をやってみることにして、気軽に始めてしまったというのがきっかけです。
 指揮者となって演奏者の時にはなかった苦労はありますか?
 オーケストラに座っていると、指揮というのは実にカンタンに思え、逆に「なんでこんな当たり前のことができないのだ?」とか、「ちゃんと振れ!」とか、巨匠にまで怒っているのですが、自分でやってみると、曲を知っているから振れる、などという生易しいものではなかったばかりか、オーボエで100回吹いた交響曲でも、自分が「全くその曲を知らなかった」(全貌を全然理解していなかった)ことに気付かされました。今年で12年たって、ようやく「基礎」にまでたどりついた、スタートラインについた、という感じです。ことに、プロのすぐれたオケで同じ交響曲を続けて振るのがとっても恐ろしいです。
 指揮者としての楽しみを教えてください。
 マンガ「のだめカンタービレ」の原作に協力させていただいたご縁から、全国で「のだめコンサート」を指揮しています。このことが、たくさんのプロのオケに客演出来るチャンスになっていて、音楽をほとんど知らない方に交響曲を楽しんで貰えるのがとても幸福です。自分の現在の目標は、ハイドン、モーツァルト、バッハ、ベートーヴェンなどの作曲家の作品を、聴き慣れた方にも、初めて聴く方にも、本当の意味で理解して聴くと数倍も数十倍も感動できる、ということを伝えていくことです。
 ご自身の著書である「オーケストラ楽器別人間学」(新潮文庫 2002年9月)では、楽器選択運命論や楽器別人格形成論を独自の視点でお書きになっていますが、指揮者はどんなタイプだと思われますか?
 「楽器別人間学」で論じた人格形成は、先天的に楽器を選ぶ、ということと、選んだ後、演奏しているうちに社会的に影響を受けて(第2ヴァイオリンが寡黙で思いやりに富むなど)変化していく、ということでした。その意味から言うと、指揮者は、先天的に指揮者に向いている、あるいはどうしても指揮者になりたい、という強い希望がなければまず成功しないと言ってもよく、後天的には、ほとんど社会的な制圧がないので自由で独立心が強く、やや風来坊的です。公演に対する責任感は非常に強いですが、一方ですべてが自分のプロデュース、成功につながっていることから、プレッシャーを感じることはあまりありません。信じるままに、自分の音楽観、人間観を表現していくのが指揮という仕事です。
 6月に米子市で開催される室内オーケストラ公演を指揮されますが、見どころ・聴きどころをお聞かせください。
 まず、N響を代表する名手、首席奏者を多数揃えて公演できることが素晴らしいと思っています。コンサートマスターの永峰さんはぼくが最も信頼する音楽家のひとりで、ご自分でも指揮をされる方です。独奏の2人は、若い世代のN響を代表するスターで、人気、実力とも文字通り日本のトップクラスでしょう。曲目は、古典派の巨匠の優れた創作を選んでいます。ハイドンの交響曲第45番「告別」は暗い内容ではなく、貴族社会の楽しい祝宴での余興として演奏されたもので、自身の最も優れた創作を輩出した「疾風怒涛期」を代表する名作です。モーツァルトの「アイネ・クライネ」(第1楽章のみ)はあまりにも有名ですね。バッハの「オーボエとヴァイオリンのための協奏曲」は先述の名手2人の軽やかで情熱的な共演を楽しめる音楽です。ことに、第2楽章の、ピチカートだけを伴奏に、ふたつの楽器が旋律を綾なすように紡いでゆく有り様は、初夏の森を見え隠れに散歩する恋人たちのようです。ベートーヴェンの「ロマンスヘ長調」は、ボン時代のベートーヴェンがいかに純粋に美しい感性をすでに整えていたかを証明する、若き日のポートレートです。そして、モーツァルトの「交響曲ト短調K550(第40番)」。この作品は記念碑的な名作で、この曲以前の交響曲の全てはここに集約され、その後の交響曲はここから始まり、モーツァルトの「3大交響曲」の中心をなしています。作曲家の精神の心奥が表現されたこれらの作品をお楽しみください。
今月の顔 茂木大輔(指揮者)
 東京出身、ミュンヘン国立音楽大学大学院修了、同大学オーボエ科の講師を経てシュトウットガルト・フィル第1奏者、1990年からN響首席奏者を歴任。1996年から指揮活動に入り、日本フィル、東響、九響、広響、群響、オーケストラアンサンブル金沢、大阪センチュリー、大阪シンフォニカー、セントラル愛知、カレッジ・オペラハウス管、東京混声合唱団などに客演。指揮を故:岩城宏之、外山雄三の各氏に師事。執筆、作曲、ジャズとのコラボレーション、解説など幅広く活動。「のだめカンタービレ」(二ノ宮知子作/講談社)では原作取材協力、ドラマ、アニメでクラシック音楽監修を務めた。
楽器別人格形成論
 

案内楽の解説 茂木さんが6月に米子市で指揮をされる「N響メンバーによる室内オーケストラ公演」さて、室内楽ってどんな音楽?室内オーケストラってどんな楽団?
室内楽
 バロック音楽以前のイタリア宮廷で、王侯貴族の耳を楽しませ、心を慰めるために生まれたもので、バロック以降も、古典派、ロマン派、そして近代に至るまで数え切れないほどの名作が生まれています。室内楽というひとつのジャンルだけをみても、長い歴史と自由な編成によって、その作品は後世に発展したオーケストラ作品以上の広がりをもっています。また、小人数で奏でられる音楽だけに、その繊細な調べや響きによって、作曲家の心の奥までを自在に表現しています。
室内オーケストラ
 20〜25名くらいの奏者からなる小編成のオーケストラで、18世紀を中心に皇帝や国王、貴族の宮殿の中でクラシック音楽を演奏したことに由来します。ヴィヴァルディ・バッハ・ヘンデル・ハイドン・モーツァルト等の時代に近い編成で演奏したいという欲求から、20世紀半ばから盛んに結成されるようになりました。

茂木大輔さんは「オーケストラ楽器別人間学」の他にもたくさんの著書がありますので、
チェックしてみてください。
「茂木大輔オーケストラ人間的楽器学大人のためのオーケストラ鑑賞教室」上下巻
 (ヤマハミュージックメディア 2001年6月)
「こうしろ! 未来のクラシック 茂木大輔の予言・提言・夢と現実」
 (ヤマハミュージックメディア 2003年12月)
「くわしっく名曲ガイド」 (講談社 2006年10月)
「拍手のルール」(中央公論新社 書き下ろし 最新刊発売中)
「のだめカンタービレの音楽会」(講談社 2008年7月予定)
「音大進学・就職塾」(音楽之友社 2008年8月予定)


祝50周年 米子市公会堂と共に歩んだ50年  米子市音楽祭・米子労音茂木大輔指揮N響メンバーによる室内オーケストラ公演
N響メンバーを中心とした20名編成による室内楽。茂木大輔率いる室内オーケストラが珠玉のメロディーを奏でます。
  曲目予定
モーツァルト:アイネ・クライネ・ナハトムジーク 第1楽章
バッハ:オーボエとヴァイオリンのための協奏曲
ベートーヴェン:ヴァイオリンと管弦楽のためのロマンス ヘ長調
ハイドン:交響曲第45番「告別」
モーツァルト:交響曲第40番ト短調
 
  2008 6/22(日)  開場13:15 開演14:00  会場:米子市公会堂
共同主催:財団法人米子市教育文化事業団
 
  チケット 全席自由 好評発売中!!
一 般 :3,500円(3,000円)  高校生以下 :2,000円(1,500円)
※( )内は、財団友の会、団体10名以上料金 ※当日各500円増
 
  プレイガイド
【西部】米子市文化ホール、米子市公会堂、米子市淀江文化センター、ビッグシップ
     エル・パパ(ジャスコ日吉津店)、ホープタウン、米子しんまち天満屋、米子高島屋
【中部】倉吉未来中心
【東部】とりぎん文化会館(鳥取県民文化会館)
【県外】しまね文化情報コーナー
 
  要予約■託児サービス(無料・定員あり)申込締切:6/8(日)  
  お問合せ先:とりぎん文化会館(鳥取県民文化会館)(0857)21-8700   

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