鳥取県民文化財団情報誌 アルテ
2008年2月
アルテとはスペイン語で「芸術・美術・技巧」などの意味で、英語では「アート」。アルテでは、県民文化会館をはじめ鳥取県内の文化施設のイベント情報を紹介しています。

 演劇はもともと「宗教的な儀式が発展したもの」もしくは、「人間が本能、あるいは社会的な営みとして生活の中で行う模倣など」が起源なのではないかと言われています。
 長い歴史の中で、演劇が今もなお続いているその訳は、「人々の日常生活や、人としてどう生きるかという根源的な部分に寄り添い、成り立っているから」だと言えるかもしれません。
 今回は、演劇の何が人を惹きつけるのか、上演までのプロセスを追って、演劇に魅せられた人々の様子を紹介します。

作品決定

「火のようにさみしい姉がいて」

作:清水邦夫

 40歳を前にした落ち目の舞台俳優が、妻と共に帰郷し、懐かしい筈の故郷の人々と古ぼけた理髪店で再会する物語。
 理髪店と楽屋の鏡を通して、過去と現在、故郷と都会が交錯し、次第に夫婦と姉弟の嘘と真実が浮かび上がる。人間の弱さを鋭く突いた作品。
今回は公演地である米子市在住の演劇関係者らの皆さんに集まっていただき、候補作品の中から1本の上演作品を決定するにあたって以下のような意見交換を行いました。
他の候補作品 :
「夜明けに消えた」 作 : 八代静一
「夜よ おれを叫びと逆毛で充す 青春の夜よ」 作 : 清水邦夫
エグゼクティブ
プロデューサー
 「70年代はニューレフトが台頭し始め、新しい演劇の潮流が出始めた頃。閉塞性や失速感などは現代との共通性もある。現代から70年代を捉えなおし、時代の持つ意味と演劇が社会に及ぼした影響などを検証する必要がある。」
第二次世界大戦後に欧米や日本で派生した新左翼。
 共産党など既成政党と離れた新しい社会主義運動。
プロデューサー
 「地元劇団では上演が難しいような骨太の戯曲を選びたい。ただし、例年の参加者の状況を考え、登場人物は10名程度。普段の仕事をこなしながら演劇を創る地元演劇活動者の思いや、地域だからこそ見える社会への憤りを生かせる作品を選びたい。」
劇作家
 「自分自身は清水邦夫の作品は、比喩が多く、現代詩のような感じがするので苦手。この作品は、故郷は遠くだとありがたいが、近づくと疎ましいという感じが上手く出ている。インパクトがあって演劇を見慣れた人が面白がる作品だが、見慣れていない人がどう思うかが心配。この作品に決定した初心を忘れないで創って欲しい。」



Dramatic Company
異時幻代表
 「鳥取の演劇界にとっては、この作品のように演出方法が分からないような作品を選んだ方が、今後のためになる。台詞を言い合う面白さが発揮できる。この作品は、ノスタルジーというか、故郷への思いが凝縮している。」
演劇集団あり
 「『火』というイメージを裏切って、『さみしい』と続くタイトルが面白い。鏡の存在をどのように舞台で表現するのか興味がある。ただ、地元の観客には望郷に対する共感が薄いのではないか。創り上げるには険しい道のりになると思うが、険しい道が選べる環境にあるのならば、是非選んで素晴しい公演にして欲しい。」
米子市民劇場事務局
 「鏡を通して現実と故郷が繋がっているのが興味深い。清水邦夫は、人間の多面性をついているが、その書き方がいやらしくないのがいい。観客にとっては、見る機会が少ない種類の演劇公演を鑑賞できる。演劇を見慣れていない人にも分かる作品に仕上げて欲しい。」





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