鳥取県民文化財団情報誌 アルテ
2007年12月
アルテとはスペイン語で「芸術・美術・技巧」などの意味で、英語では「アート」。アルテでは、県民文化会館をはじめ鳥取県内の文化施設のイベント情報を紹介しています。

 弦楽合奏と柔らかな木管楽器の調べに混じって、小粒ながらも歯切れのよいチェンバロの音色が優しく耳に響き、楽曲の精霊さながらにオルガンが旋律を包み込む。ホテルや空港のロビーのBGMとしてしばしば使われるバロック音楽は、疲れ切った私たち現代人を癒す不思議な魅力を帯びています。西洋音楽史の大きな土台となったバロック時代は、同時に鍵盤楽器全盛の時代でもあります。プロオルガニストの米山麻美さんに、その魅力に満ちた奥深い世界へ招待していただきます。
起源のちがう鍵盤楽器
バロック期にはチェンバロ、クラヴィコード、レガール、パイプオルガンなど多くの鍵盤楽器が親しまれました。これらの共通点は鍵盤を弾くという演奏方法ですが、音を出す仕組みはまったく異なります。弦をひっかいたり、たたいたりすることで音が鳴る弦楽器(チター、ギターなど)の仲間がチェンバロやクラヴィコードです。一方、空気を送って音を出す笛(笙、リコーダーなど)の仲間がパイプオルガンやレガールです。こうした音色を聴き比べると面白いですよ。
家庭でアンサンブルを楽しんだバロック人
パイプオルガンというと教会やホールの壁一面を占める大きくて荘厳なイメージを持たれがちですが、ポジティフ・オルガンと言う小さくて移動できるものもあります。未来中心のパイプオルガンはこのタイプです。他の弦・管楽器との合奏に力を発揮する、地味だけれど大切な縁の下の力持ちのような楽器です。バロック期の人々は、教会では大きなオルガンで神様をたたえ感謝する壮大な音楽(宗教曲)を奏で、家庭では恋愛や自然、生活に根ざした音楽(世俗曲)をポジティフ・オルガンやチェンバロ、クラヴィコードで合奏して楽しみました。パイプオルガンの夕べスペシャル・コンサートでは、そんな家庭的な楽しい雰囲気を演出するつもりです。

なぜパイプオルガンを聴くと清らかな気持ちになるの?
パイプオルガンは、楽器の構造上、音の強弱や激しい抑揚がつけられないので、ピアノからは考えられない不自由さを伴います。また、国や製作者、年代によって、パイプの数や音色、鍵盤やストップ、風の通り具合、笛の鳴り具合もまったく異なります。演奏者は一つ一つの楽器に身をまかせ、その良さを引き出せるよう内面を磨かなければいけないわけで、自分の思い《感情・知識・自我》だけでは奏でられない楽器です。パイプオルガンの演奏者は、パフォーマンスとして個人の技量を魅せる表現者ではなく、人間の英知を超えたところから語りかけてくるものを示す一つの媒体にすぎないのです。大いなるものに身を任せるしかないところが、逆に魅力でもあります。だから、聴くと自然と心が癒されたり、清められるのかもしれませんね。
旋律のからみ合いこそ、バロック音楽の魅力
現代の私たちが馴染んでいる「メロディ+和音の伴奏」というスタイルはモーツァルト以後に確立しました。それ以前は、旋律がからみ合うポリフォニーというスタイルでした。ゆったりやわらかく聴こえる曲でも、一つ一つのメロディの役割は細かく考えられ、旋律が繰り返され重なり合います。アンサンブルでは楽器同士の旋律のからみ合いも楽しめます。「四季」、「主よ人の望みの喜びよ」、「目覚めよと呼ぶ声が聴こえ」など、お馴染みの曲でも感じていただけると思います。

音楽の父、バッハの遊び心
バッハは非常に緻密に旋律を作り、広大な宇宙のような世界を作りました。そこに象徴的な意味を隠している事が多々あります。たとえば、聖書や宗教的詩からフレーズを多く引用していて、「三位一体の神」というフレーズがある場合はそれを3回繰り返します。「3」という数字には重要な意味があるのです。シ♭ラドシというメロディが隠れていることもあります。これは、ドイツ語で「ベーアーツェーハー」、つまり「BACH(バッハ)」となる作曲家の遊び心です。カンタータ第51番では「全地で歓呼して神を迎えよ」という内容であるため、象徴するようにファンファーレのような上向きの旋律が作られています。





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